昨年まで湖西市長を務めた影山剛士さん（51）が市内を拠点に株式会社「浜名湖社中」を立ち上げた。社会保障やインフラ維持など、多様化するニーズに「一つの市だけではなく、広域連携と官民共創を促進するべきだ」と力説。自身は「つなぐ役割」を果たし、地域の困りごとの解決を目指す。

　影山さんは「国民の生活に直接的にフィードバックできる仕事に」と大学卒業後に大蔵省（現財務省）へ入省。不良債権処理や銀行再生など、金融行政の最前線に立った。　

　主計局勤務だった40代を前に転機が訪れる。製造業で知られる湖西市だが、人口流出やインフラの遅れ、市街地整備など課題は山積していた。「優良企業が多く、財政状況は良いイメージだったが、市議団が予算要望に訪れた際に、多くの課題を抱えていると知った。イメージとのギャップがあった」と故郷への危機感を募らせていった。

　同じタイミングで同級生や知人から「市長選に立候補してみないか」と誘われた。「知識や経験はないし、家族を東京に残すことになる。人生で一番迷ったかもしれない」と影山さん。それでも「故郷を何とかしたい」という気持ちが上回った。「市長選に挑戦してみたい」。この思いを妻に打ち明け反対されたが、覚悟を決めた。

　２０１６年４月に退職し、市長選に向けた活動を始めた。右も左も分からなかったが、知人が市内の個人宅や商店、施設などが細かく書かれた住宅地図を手渡してくれた。「湖西市を知ることが第一歩だ」と一つひとつ蛍光ペンで線を引き、訪問し続けた。「ここの道路を直してほしい」などの厳しい意見は欠かさずメモしていった。

　今も残っている地図はボロボロで蛍光ペンやメモだらけ。「市内の道はだいたい覚えた。土地鑑があると市民の本音が引き出せるし、街の課題の解像度が上がった。これが選挙戦の自信になったし、政治生活の原点になっている」と振り返る。　42歳で初当選。以後２期８年、市政運営の第一線で地域課題と向き合った。市長としての信条は「初心を忘れず、聞く姿勢を大切にし、客観的に迅速な判断を行う」こと。これは政治姿勢ではなく、生活や仕事のあらゆる場面に共通する心構えだという。