2026年1月、バンコクで愛知県商工会連合会主催の食品商談会が開かれた。
会場に向かう道すがら、正直なところタイの日本食市場はすでに成熟しており、新たな商機は限られているのではないかという思いがあった。日本食レストランは都内にあふれ、寿司もラーメンも、もはや特別な存在ではない。日本食市場は飽和状態にある―それが一般的な見方であろう。しかし、結果は予想を裏切った。会場には飛び入りも含めて40社近いバイヤーが集まり、行われた商談は130件を超えた。終日、各ブースでは具体的な味や価格、調理方法などを巡る詳細なやり取りが続き、熱気が途切れることはなかった。
タイの日本食市場は決して「入る余地がない」のではなく、「精査される段階に入った」のだと実感させられる光景であった。背景には、タイ人消費者の嗜好(しこう)の変化がある。訪日経験者の増加やタイでの日本食の浸透により、日本食への理解は格段に深まり「本物」を求める消費者が増えている。そのため、単なる和風、単なる日本産では評価されない一方で、価格競争力があり、高品質で生産者の想いやストーリーが明確な商品には、今も確かな需要が存在する。
今回の商談会で浮き彫りになったのは、タイのバイヤーは既存商品と異なる新たな価値を持つ商品を常に探している、ということである。今回出品された商品は、商品カテゴリーだけを見ると既に先行メーカーがタイで展開しているものも多い。にもかかわらず多くのバイヤーが会場に詰め掛けた。彼らも消費者にさらなる価値を提供できる商品を常に探し続けており、そうした商品はまだまだタイで必要とされているのである。一方で、既存商品とは異なる価値を提供できない商品は、飽和した棚の中に埋もれてしまう。
タイ食品市場は可能性が閉ざされた市場ではない。新たな価値を語れる者にだけ、扉が開かれている市場なのである。
購読残数: / 本
週間ランキング
日付で探す