タイ・バンコクは美食の街です。約540万人が住むこの町にはレストラン、カフェ、屋台など無数の飲食店が軒を連ね、バンコクの活気ある風景を彩るうえで、これらは欠かせない要素となっています。
しかしながら、昨今タイでは物価が上昇し、市民の食生活を圧迫しています。タイの調査会社「Agency for Real Estate Affairs Co., Ltd.」によると、バンコク中心部の平均的な食事価格は、2012年の31・0バーツから2026年には65・3バーツと、この14年間で2倍以上になっています。
この要因はウクライナ戦争や中東危機を発端とする原油価格や肥料価格の高騰、それらに連動する物流費の増加といった世界共通のものに加え、タイにおける新型コロナウイルス禍後の経済活動再開及び観光客数増加による人件費上昇にあるとされていますが、その一方で、賃金の上昇は物価高に追い付かず、特にその傾向が顕著な低所得者層で、ますます日々の生活が苦しくなっています。
こうした中、負担低減を求める市民の声に応えるべく、タイ商務省から「『40バーツ定食法案』を内閣に提出する」との発表がなされました。これは、まず参加を希望する飲食店を募り、参加飲食店はタイで一般的な惣菜飯(カオゲーン)や一皿料理などを40バーツ以下で提供する代わりに、政府が食材費の一部を補助し、労働者や低所得者層が手頃な価格で食事にアクセスできる環境を整備する、というものです。
政府は全国約10万店舗を対象とした試行導入を計画し、参加店舗には3000~1万バーツ程度の支援金を提供、利用者が対象店舗を容易に判別できるよう、専用の表示を設置する、といった方策を検討しましたが「40バーツでは利益確保できず、参加店が集まらない」「市場価格への過度な介入ではないか」「財源は継続的に確保できるのか」といった懸念の声が次々と上がり、結局同案の閣議提出はいったん、見送られることとなりました。
政府は引き続き内容の再検討を進めている、とのことですが、外食価格の上昇に対する市民の不満には政府も敏感になっていることに加え、庶民的な外食文化の維持を重要視していることを、端的に表すエピソードであったと言えます。物価上昇だけでなく、円安バーツ高のあおりもまともに受けている日本人駐在員としては、もはや十数年前の「30バーツ=100円定食」は望むべくもありませんが「40バーツ定食法案」の導入有無にかかわらず、屋台で味わうおいしいタイ料理とビールはプライスレス、ということで、これからも(財布と相談しながら)楽しんでいきたいと思います。
購読残数: / 本
週間ランキング
日付で探す