中島みゆきさんの名曲に「命のリレー」という歌があります。その中に印象的な一節があります。「この一生だけでは辿り着けないとしても、命のバトン掴(つか)んで 願いを引き継いでゆけ」と、いうものです。命を引き継いでいくのに一番大切なものは、言うまでもなく私たち一人一人の健康です。
ところで昨年、政府が第四次産業革命を目指して発表した「日本再興戦略2016」のなかで、<世界最先端の健康立国>を高々とその目標に掲げていることをご存じでしょうか。官民戦略プロジェクト10として1.第4次産業革命(IoT・ビッグデータ・人工知能)、2.世界最先端の健康立国へ、3.環境・エネルギー制約の克服と投資拡大、4.スポーツの成長産業化、5.既存住宅流通・リフォーム市場の活性化、6.サービス産業の生産性向上、7.中堅・中小企業・小規模事業者の革新、8.攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化、9.観光立国、10.官民連携による消費マインドの喚起策等が取り上げられていますが、日本における第四次産業革命の本命は、日本の健康問題を今までにないイノベーションで根本的に立て直し、大きく進化させることではないでしょうか。現在、租税負担率と社会保障負担率を合計した国民負担率は、昭和45年の24.3%が平成28年には43.9%、財政赤字を加えた国民負担率は50%を超えています。もし、国民一人一人の健康をイノベーションで大幅に増進させることができれば、国民負担率を大幅に減らすことができます。そのためには、私たちのライフスタイルや政府との関係、社会保障、社会インフラ、そして産業や職場まで根本的に変える必要が出てきます。つまり、日本の足元からのイノベーションを、健康を通じて行うことができるわけです。こうした健康イノベーションが日本で起きれば、グローバリズムによる利益追求が行き詰まりを見せている現在の世界に向かって健康で持続可能性のあるライフスタイルの新しいモデルを提供することにも繋がっていきます。もちろん、健康イノベーションは現在、山積する社会問題を解決する方向で進めなければならないことは言うまでもありません。そこで、目指すべきは、ストレスのない職場、病気にならない生活、安心できる社会インフラの三つでしょう。強制捜査まで入った電通の過労死問題に象徴されるように多くの疾病や不調は、職場のストレスが生んでいます。21世紀にふさわしい経営革命、働き方革命を起こせば、職場のストレスを大幅に減らすこともができるでしょう。一番大事なのは、あらゆる分野の情報やイノベーションを通じて確立された病気にならない生活の知恵を国民全体で共有し、実践していくことでしょう。ここで問題になってくることは、「今だけ、自分だけ、お金だけ」の20世紀的な価値観を乗り越えることができるか、どうかです。そのためには、私たち人類の長い歴史には競争原理だけではなく、共生原理も太古から厳然と存在していたことを思い出す必要があるのかもしれません。また、安心・安全な衣食住空間を可能にする社会インフラが健康増進には欠かせないことは言うまでもありません。資源、エネルギー、交通、通信、教育、職場、住宅などあらゆる社会インフラを健康増進の目的に向けて再構築していく必要もあります。
これから、地方にはヘルスケア分野のエコシステム作り、食、農、観光、地域特性に根ざしたスポーツなどの地域資源等を利用した複合型の産業育成が求められてきます。医療ツーリズム、ホスピス活動等はこの地域でも数年前から関心が持たれてきました。その意味でドイツの統合型リゾート構想であるバーデン・バーデンを越えるものが東三河から生まれても不思議ではありません。いずれしろ、人間にとって一番大切なことは、命のリレーです。
(取締役 統括本部長 山本正樹)