米の生産現場や売り場で異変が続いている。象徴的な事象が米価の動きだ。国も政府備蓄米の放出をはじめ、統計調査の手法の見直しなどさまざまな手だてを打ち出す。豊橋市と、湖西市など静岡県西部の米の生産や販売の現場を追った。
「在庫終了の為 休業致します」。湖西市白須賀の米穀店の引き戸に貼った紙にこう記されていた。
地元農家から昨秋調達した米が今年2月に完売。例年であれば、新米が出回るまでの期間は米卸から手当てしているが今年は顧客が求める価格水準でなかったため仕入れを見送った。夫とともに店を切り盛りする山本素子さん(81)は「米の販売に携わって50年になるが長期休業するのは今回が初めて」と説明した。販売再開は「新米の仕入れ量と価格をみて考えたい」と話す。
米を巡る異変は、記録的な冷夏で不足した1993年以来の事態との声は多い。豊橋市大岩町の「八十八(はとや)米穀店」では6月中旬、例年なら20種類ほど店頭に並ぶ品種が11種類ほどになった。売り切れた産地銘柄米は価格や特徴などを書いた表示を裏返す。店主の岩嶋承平さん(73)は「これまで安すぎた価格が今年に入り一気に上がった。これ以上、上がったら売れない」とため息をついた。顧客のほぼ半数を占める外国人向けにブレンド米も用意しているが国産米だけでは価格が上がるため今年から輸入米を採用。「研修生らの生活をなるべく助けたい」(承平さん)との思いがあるという。
サービスへの新たな動きも出始めた。購入した玄米を店で取り置き、必要な分をその都度、好みの精米歩合にして持ち帰ってもらう希望者向けの仕組みを以前から導入していたが今春以降、問い合わせが例年に比べて1・3倍に増えたという。後継者の肇哉(けいや)さん(46)は「分づき米や精米したての味わいを楽しんでほしいとの狙いで始めたが最近は安心・安定を求める需要がある」と語る。
変化の裏側には生産現場の実態も見え隠れする。静岡県西部の米穀店では今春に入り新規客が増えた。担当者が理由を尋ねたところ「これまで農家から直接買っていたが米作りをやめてしまった」との回答だったという。「今年から栽培を委託したのかどうかは分からないが米農家の数は減っているのではないか」と指摘する担当者は「生産資材や農機の価格も高値続きで米価が上がっても農家の手取りは増えていないと聞く。流通経路の精査を含めて米農家への手厚い支援が必要」と強調する。
愛知、静岡の県産米を中心に取り扱う豊橋市の別の米穀店は、一定の需要がある東北や北陸といった米どころの銘柄米も仕入れて販売する。だが、今年は仕入れ先から「実は売る米がない」とのまさかの返事をもらった。担当者は言う。「単に価格が高い、安いという議論だけでなく、安全・安心を含めて自給率100%が実現可能な主食の米を今後どうしていくのか、自分事として考えたい」
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