武蔵精密工業が豊橋市などと共同で運用を始めた「豊橋マイクログリッド」(小規模電力網)の完成披露式が16日、同市植田町の本社植田工場であった。工場内の太陽光発電設備を生かし、災害時に近隣の公共施設などへ電気を供給できる。災害時の大規模停電を想定したシステム発動訓練もあった。製造工場から地域への電力供給は全国初。
マイクログリッドの発電拠点となる植田工場新南棟では、太陽光パネルと蓄電池のほかガスコージェネレーションで電気を融通できる。
普段は工場の自家消費で賄うが、災害時は中部電力パワーグリッドの電力系統を経て、近隣の指定避難所でもある市大清水まなび交流館(ミナクル)など25世帯へ電力を送る。
中電パワーグリッドの要請を受けて外部へ送電する。その際、工場で使う交流から直流に変える高圧受電設備のほか、パワーコンディショナーで家庭用電力に変換し、使用可能な状態にする。さらに、武蔵精密の独自蓄電装置「ハイブリッドスーパーキャパシタ」(HSC)で、従来は非常用電源では稼働できなかった高容量の冷蔵庫や冷暖房機、IHヒーターなども使える。
この日は南海トラフ巨大地震に伴う大規模停電を想定したシステム発動訓練があった。中部電の発動要請や市防災部局との連携、工場受電設備の切り替えやHSCを使った家電製品の稼働テストなど、一連の作業の流れを再確認した。
同社によると工場の太陽光発電システムと蓄電池、ガスコージェネレーションを合算した供給可能な電力量は、復旧までの目安となる5日間で4500㌔㍗時を賄えるという。
武蔵精密は2021年に、38年のカーボンニュートラルの実現を宣言。マイクログリッドシステムの運用開始で、災害時の地域貢献とともに、平時は生産活動に伴う温室効果ガス排出抑制をにつなげられる利点がある。
市や中電パワーグリッドとは21年秋からプランづくりを始め、23年度末に関連会社を含む9社でコンソーソアム(共同企業体)協定を結んだ。資源エネルギー庁の公募にも採択され、自社での展開や製造業などへの広がりも期待される。
浅井由崇市長は「地域防災の自助や共助が可能になる。技術的な課題も多いが豊橋マイクログリッドが先例として広がってほしい」と期待した。
【加藤広宣】
外部系統へ接続するための訓練
テープカットで運用開始を祝う大塚浩史社長(左から3人目)と浅井市長(同4人目)ら