発酵に学ぶ組織づくり
室町時代から続く豊橋市の種麹メーカー「糀屋三左衛門」第29代当主で、ビオック社長の村井裕一郎さん(44)の著作「ビジネスエリートが知っている教養としての発酵」(あさ出版)が好評だ。出版から5カ月たった今でも、市内の書店では主要コーナーに並べられている。村井さんは「発酵について学べば、チーム作りや客先での会話など、さまざまなシーンで役に立つ。同世代の経営者や管理職に読んでほしい」と呼び掛ける。
身近なようでよく分からない「発酵」に焦点を当てた。「発酵といえば『健康』『料理』というイメージが先行していると感じていた。発酵の考え方を学び、さまざまな物の見方を身につけるための一冊」と話す。
村井さんは慶応大学経済学部、同大環境情報学部、アメリカ国際経営大学院を経て、家業に入った。最初は、麹種の制作現場や営業回りなど、何でもこなして仕事を覚えていった。
当主は代々「麹の声を聴け」とよく言われていたという。「麹は暑いとも寒いとも言わない。麹菌を観察すること、時には実際に触ってみる作業を通じて、部屋の温度や湿度をコントロールして環境を整えてあげる」とある。
2016年、35歳で父の跡を継ぎ、社長になった。チームを束ねる立場になって、徐々に自分の理想とするマネジメントの仕方と、微生物の動きの共通性に気づき始めたという。「人間には発酵食品はつくれない。微生物たちの勝手な行動が、自然と環境のコントロールになっていたり、栄養を補給する関係になったりしている。自分にできないことを信じて任せるという感覚は、発酵食品づくりからも養える」と説く。
同社では「一人ひとりが自発的に動く」組織づくりを目指している。「先代の頃は上下関係が強く、トップダウンを徹底するタイプの組織だった。今は、会社の目指す方向と個人のやりたいことの重なりをどう増やしていくかを意識している」と語る。
全6章で構成。1章はビジネスパーソンが発酵を知る意義を説く。2~4章は、発酵の基礎知識や歴史、世界の発酵食品などについて、図解付きで解説。世界で「発酵」の考え方が注目を集める要因をひも解く。5章は発酵業界の特徴、6章は発酵の考え方の取り入れ方を提案している。
1650円(税込み)。全国の書店、インターネットなどで。
【北川壱暉】