愛知大学の前身校と位置づけられている東亜同文書院。ここの図書館の軌跡を、愛大図書館で長らく司書を務めた成瀬さよ子さん(76)が、国内外の膨大な資料を元に、一冊の本にまとめた。「東亜同文書院の中の大学図書館史をまとめたのは本書が初めて」と高く評価されている。
書名は「上海東亜同文書院大学図書館の世界~その激動の軌跡から解き明かす」。シンプリブックス発行、B5判134㌻、3300円(税込み)。精文館書店、豊川堂、大手通販「アマゾン」などで販売中。
成瀬さんは豊川市生まれ。地元の小中学校、県立国府高校を経て愛知大学短期大学部卒。2年次に司書資格を取り、愛大図書館職員になった。
「司書は4~5人。人材を育てるため、10年単位で仕事を任された」という。最初は整理業務、続いてレファランス(図書の照会や検索)、選書とこなしていった。
1990年代末、レファランスを担当していた頃、東亜同文書院に関連する書籍の問い合わせが殺到した。書院は1901年の設立。その100周年を控え、ここで学んだ人々が資料を探していた。「応対するうちに、詳しくなっていった」と語る。そして50歳になった頃、その図書館について本にまとめようと思い立った。
愛大に引き継がれた資料を元に図書館内で研究発表した。2004年には米国のハーバード、ミシガンなど5大学で研修を重ね、優秀なライブラリアン(図書館員)の薫陶を受けた。「英語が話せない、と心配していたら、みんな日本語が堪能で苦労しなかった」と笑う。今も交流があるという。
研修前に半年かけて、「東亜同文書院関係目録」を作った。図書館にこもりきり「半年間、毎晩9時過ぎまで残った」と語る。さらに退職後は外務省外交史料館のデータベースを4年かけて分析し、書院の図書館の実態に迫った。
本書は、書院が設立された1901年から13年までを初期、17年から37年までを中期(黄金期)、38年から45年までを後期(大学昇格後)と分類。各時代の図書館財政と蔵書数、利用する学生数などを戦禍が広がる中国大陸との動きを絡めて描く。「筆書きの文字の解読が大変だった」と成瀬さん。後半は収集した資料編となっている。
「とにかく図書館にはお金がないことが分かった」と話す。国の補助金は少額で、さらに2度の火災で蔵書を失う悲劇もあった。篤志家の寄付や図書の寄贈で成り立っていたという。
本書を推薦した愛知大学名誉教授で、元愛大東亜同文書院大学記念センター長の藤田佳久さんは「ユニークな傑作。東亜同文書院の歴史に厚みを増した」と評価した。
【山田一晶】