帝国データバンク名古屋支店は、東海4県企業を対象に「カスタマーハラスメント(カスハラ)」に関する調査結果をまとめた。顧客や取引先などからのクレーム、言動のうち社会通念上不相当なもので、その手段や態様により、労働者の就業環境が害されるものを指す。直近1年でカスハラ被害に遭った企業は17・6%となり、全国平均(15・7%)を上回った。東海地方ではカスハラ被害は深刻化のようだ。
被害企業を業界別に見ると、「小売」が40・7%と最も高く、多くの企業がカスハラを経験していることが明らかになった。次いで「不動産」(36・4%)▽「サービス」(26・3%)―の順。顧客と直接接する機会が多い業界での被害が目立つ。一方、「製造」(6・8%)や「運輸・倉庫」(12・5%)、「卸売」(14・6%)は比較的低く、顧客との接点が限定的な業界では被害が少ない傾向が見られた。
カスハラの内容は、暴言や威嚇、長時間拘束、理不尽な要求などが挙げられる。従業員の精神的な負担を増大させ、離職や休職につながるケースも少なくない。また、企業にとって、顧客対応に追われることで業務効率が低下し、生産性の低下や機会損失につながる恐れもある。
カスハラ対策については「顧客対応の記録」が20・1%で最も多い。次いで「カスハラを容認しない企業方針の策定」(11・2%)、「カスハラ発生時のサポート体制の構築」(9・0%)が続いた。しかし、具体的な対策を取っている企業は依然として少なく、多くの企業がカスハラへの対応に苦慮している現状が浮き彫りになった。
「どこからがカスハラに該当するのか分かりづらい」との意見が多く、具体的な対策が取りづらい一因となっている。また、顧客との関係悪化を懸念し、毅然とした対応を取れない企業も多い。専門家は「まずは一人ひとりが良きカスタマーとなることを心掛けることが重要」と指摘する一方で、「企業側もカスハラを許容しない姿勢を明確に打ち出し、従業員を守るための対策を積極的に講じる必要がある」と警鐘を鳴らす。
カスハラ問題は、従業員のメンタルヘルスや企業の生産性に悪影響を及ぼすだけでなく、社会全体のモラル低下にもつながる深刻な問題だ。一人ひとりが意識を高め、企業と協力してカスハラ撲滅に向けた取り組みを進めることが求められている。
【山田一晶】
東海4県でこの1年にカスハラを受けた企業の割合(帝国データバンク名古屋支店の資料から)