米の生産現場や売り場で異変が続いている。象徴的な事象が米価の動きだ。国も政府備蓄米の放出をはじめ、統計調査の手法の見直しなどさまざまな手だてを打ち出す。豊橋市と、湖西市など静岡県西部の米の生産や販売の現場を追った。
豊橋市で水稲を中心に経営する「みずほ農産」の直売所に2月初旬の週末、車が列を成した。30㌔入り新米(玄米)を求める外国人の客が訪れ、開店から2時間ほどで売り切れに。この日以来、店頭や店内には日本語と英語、ポルトガル語で2024年産玄米の販売終了を伝える張り紙を出している。代表取締役を務める福井直子さん(64)は当時の驚きを振り返り「過去に経験がない」と言い切る。
小麦を含めて約80㌶を担う同社は多収の飼料用米も生産していたが昨年、「栽培管理をしっかりしていたのにもかかわらず、収穫量が極端に少なく、がっかりした」と福井さんは言う。異常気象の影響とみられる。このため今年は飼料用米の栽培を見送り、新たに主食向けの高温耐性品種の栽培に乗り出した。主食用米だけでも10品種ほどを作付ける。
販路は、同社の直売所だけでなくJAの産直施設や農産物直売所のほか、米卸、JAへの出荷など複数ある。直売所での販売価格は、かさむ生産費を勘案し正月明けに見直した。福井さんは「消費者の立場になれば価格の値上がりは大変であることは理解するが、米作りの現場でも生産コストの高止まりが続いているうえ、人件費を含めて必要経費が上がっていることを理解してほしい」と語る。
後継者のいない高齢農家の田んぼを引き受けて耕作する機会が増えている。福井さんは地域農業の維持と継続へ「他産業並みに生活できる環境を整えた新たな担い手づくりをはじめ第一次産業をもっと重要視してほしい」と訴える。
特産の花「コデマリ」に加え米を生産する湖西市の内山農園も年々、米の作付面積が増えている。受託を含めて約30㌶を担う後継者の内山貴敏さん(43)は約20年間で10倍近くに広がったとする。
現場で作業に携わる中、内山さんはその年の出来具合を表す国の作況指数が「実際の収穫量からかけ離れているのでは」との思いを抱いてきた。今年の異変について「(サンプル)調査に使うふるい目の幅も現場とは異なり小さい。元々、生産量が足りなかったのではないか」との見方を示した。こうした現場の実感とのずれは各地でも指摘され国は16日、「作況指数」を廃止すると打ち出した。
現役を退く高齢農家が増える中、田んぼをどう守るのか。米を作り続けるために、内山さんは「農業はもうかるというイメージがなければ新規就農者は増えない。少人数でも作業効率を上げられる基盤整備も求められる」と指摘。併せて、地元産食材を使った給食提供など食農教育を通じた理解推進の重要性も訴えている。
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