残暑が厳しい現代。おいしいウナギで活力をつければ、気候変動への適応策ともなる。ウナギの収穫量について、愛知県は鹿児島県に次ぐ2位が続いているが、1980~90年頃は1位を誇っていた。静岡県の浜名湖産や西尾市の三河一色産が有名だが、その中間に位置する東三河でもウナギはよく食べられている。特に、豊橋のウナギは2012年に「豊橋うなぎ」として地域団体商標=表1=の登録を受け、地域の特産としてブランド化されている。
一方で、ウナギは資源量の低下が問題となっている。14年には、ニホンウナギは国際自然保護連合のレッドリストの絶滅危惧種に指定された。
さらに、欧州連合(EU)の欧州委員会は、今年11月末のワシントン条約第20回締約国会議(COP20)で、ニホンウナギを含むすべてのウナギを同条約附属書Ⅱに掲載する提案を予定している。これに対し、日本の水産庁は、ウナギの資源量は回復傾向にあるとして、掲載に反対の意向を示している。
レッドリストは法的な保護義務を発生させるものではないが、権威ある基準である。ワシントン条約は3段階の附属書=表2=で、絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制する。レッドリストと直接の関係はないが、付属書掲載に際して参照されている。
付属書Ⅰの生物は絶滅のおそれがある種で、商業取引が禁止される。続く付属書Ⅱの生物は取引を規制しなければ絶滅し得る種であり、商業取引に輸出国の許可等が必要となる。付属書Ⅲは締約国が自国内での絶滅を阻止するために、締約国が掲載を要請するものである。
海洋生物資源の保存や利用は、海の憲法とも呼ばれる「国連海洋法条約」によって規律されている。同条約に基づき、生活史の大部分を川で過ごし、産卵時に海に出るウナギは「降河性の種」として、その川の所在する国が責任をもって管理しなければならない(67条1項)。
また、公海での漁獲は禁止され(同2項)、複数の国の排他的経済水域を回遊する場合は、それらの国の合意によって合理的に管理することが義務づけられている(同3項)。
ニホンウナギはマリアナ諸島付近でふ化し、東アジアに来遊する。そのため、14年に日中韓台湾の間で発出された「ニホンウナギ等の保存管理に関する共同声明」に基づき、協力して管理されている。
この声明は、シラスウナギ(稚魚)の養殖池への池入れ量の制限と報告(1項)▽各国内のNGOの設立(2項)▽国際NGO「持続可能な養鰻同盟(ASEA)」の設立(3項)▽今後の継続的協力と法的拘束力ある枠組みの検討(4項)-で構成される。
池入れ量の制限と報告は毎年更新されており、今年6月に開催された第18回非公式協議で採択された共同報道声明でもデータが共有されている。ASEAはすでに設立され、全日本持続的養鰻機構が構成員となっている一方、4項の法的枠組みはなお未設置である。
食用とされる生物は絶滅しないと言われることもあるが、それは適切な管理があってのことである。この点、法的拘束力はないとはいえ、厳しい国際環境のなか、ウナギの管理は国際協力に基づいて行われている。しかし、ウナギは高価で取引されるため、しばしば「IUU漁業」の対象とされる。
IUU漁業とは、「Illegal(違法)」「Unreported(無報告)」「Unregulated(無規制)」の漁業のことである。
ウナギは、今後完全養殖の商業化へとかじが切られるかもしれないが、現時点では規制法が未整備で、天然のシラスウナギから養殖されている。このシラスウナギは、矢作川や豊川(とよがわ)の河口付近などで採取されるが、軽量で高価なため、違法取引が後を絶たない。漁獲量の半数以上が報告されない年もあるという。
そのため、20年には漁業法が改正され、密漁の罰則が3000万円以下の罰金に引き上げられた。また今年12月からは、水産流通適正化法の改正が施行され、シラスウナギなどの漁獲、流通履歴の記録、保存が義務化される。愛知県漁業調整規則は、20㌢以下のウナギの採捕も禁止している。
今後、変わらずおいしいウナギを食べていくためには、さまざまな対策が必要である。
現在、ワシントン条約付属書Ⅱによる規制が検討されているが、逐一輸出国の許可を求めることになれば、事務コストの増加だけでなく、手続きの遅延によるシラスウナギの生命や鮮度への影響も危惧される。
日本は国内の関連事業者などの保護のため、付属書への留保(自国への義務の免除)による許可制回避も選択肢としてとり得る。留保は国際協調の足並みを乱すため、極力避けたいが、全世界のウナギの8割程度を消費する東アジアの文化への理解も求めたいところである。
ワシントン条約以外でも、IUU漁業の規制強化や完全養殖の商業化、科学的研究などにより、ウナギの資源量の回復は図られ得る。これらに共通するのは「トレーサビリティ」である。
追跡(trace)を可能にする(able)トレーサブルの名詞であり、直訳すれば「追跡可能性」となる。流通経路を記録、管理することであり、安全性や透明性の観点から、近年、さまざまな分野で重視されている。
地域団体商標として認証された「豊橋うなぎ」は、薬剤残留検査や出荷証明を含む品質管理が徹底され、トレーサビリティの履歴が豊橋養鰻漁協によって保管されている。
豊橋うなぎを提供する豊橋市の「夏目商店」は、池入れから加工、販売までの全過程を自社で担うことで、トレーサビリティを確保している。また、徹底された管理や職人のこだわりが、わかりやすくホームページで公開されている。
こうした厳格な管理の主な目的は、安全安心の確保と考えられるが、同時に違法操業や密漁の対策にもつながる。12月の改正水産流通適正化法の施行に先立ち、模範となる取組みといえよう。
連載の第6回で東三河ブランドの農産品輸出戦略に触れたが、「豊橋うなぎも」その一角を担い得る。現在の地域団体商標により、マドリッド協定議定書を通じた簡易手続での海外での商標出願が可能であるが、重ねて地理的表示(GI)の申請を検討する価値はある。
GI登録には、一定の高水準の生産方法等を基準とする必要があるが「豊橋うなぎ」はすでに組合を中心とした厳格な生産管理が行われている。
豊橋でウナギを加工、販売する「カネナカ」のように、HACCP(ハサップ)に基づく衛生管理だけでなく、「FSSC22000」といったより厳格な国際食品安全規格の認証を得ることを、組合として検討してもよいであろう。ブランド価値を上げられれば、輸出だけでなく、観光や地域活性化にも資することとなる。
あえて多くの法制度に触れたが、ほかにも「違法漁業防止寄港国措置協定(PSM協定)」や「食品衛生法」の改正など、ウナギの養殖や販売に関わる新たな法制度が次々と導入されている。
これらの的確な理解のために、各種団体や同業他社と協力して情報共有することは、SDGs目標17のパートナーシップの実現ともなる。地域一丸となって、持続可能なウナギの食文化を維持、発展させてほしい。
尋木真也(たずのき・しんや)
熊本県出身。2005年3月、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。08年3月に早大院法学研究科修士課程を修了。15年4月、愛知学院大学法学部の専任講師。20年2月から現職。専門は国際法と国際人道法、安全保障法
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