昨年4月から続く「里親詐欺訴訟」は、行方不明だった猫1匹が見つかったことで、事態が大きく変わった可能性がある。なぜ、そこに猫がいたのか。現場を歩いた。
蒲郡市形原町の双太山公園。高台にあり、眼下に竹島や三河湾が見える。1月の寒風の下、子どもたちが歓声を上げて走り回っていた。無料駐車場には10台前後の車が止まっていた。
遊具があり、芝や植え込みはよく手入れされている。野良猫の姿はない。昨年12月は比較的、温暖な日が続いたが、発見が1カ月遅れていたら、猫の命は危うかったかもしれない。
豊川市の民家に引き取られたはずのイシマツは、ここでじっと迎えが来るのを待っていたようだ。人懐こい性格といい、公園に人が来ると、植え込みの下から姿を見せて近づいてきたという。飼い主のレストラン経営、堀岡宏充さん(60)によると、空腹だった様子もなかった。誰かに餌をもらっていたのか。
猫の行動半径は限られている。米科学誌に昨年3月に発表された論文によると、6カ国で計900匹超の猫にGPS装置を1週間着けて調べたところ、せいぜい100㍍四方の中を移動していることが分かったという。
堀岡さんの家から公園まで直線で20㌔。イシマツを引き取ったはずの女性が住んでいるとされる豊川市からは、市役所を起点としても18㌔離れている。イシマツが見ず知らずの場所へ自分で歩いてきたとは考えられない。何があったのか。
「ひょっとしたら」と思わせる事実がある。
今回の訴訟の女性被告の1人が、公園から1㌔の所に住んでいるのだ。女性は堀岡さんからイシマツとは別の猫5匹を引き取ったことになっている。堀岡さんの支援者らが聞き込みをした結果、近所の人が「イシマツそっくりな猫が昨年3月、被告の家のソファに寝ているのを見た」などと話したという。
提訴前、猫を返せと女性被告の1人に迫った堀岡さんは、警察からストーカー扱いされたこともあった。だが、猫捨て場とされる数々の公園、山、保健所などを丹念に回り、9匹の猫を訪ね歩いた。チラシを何百枚も作り、目撃者を探しを続けた。その結果、ついに1匹を見つけ出した。
通報した蒲郡市の中学3年生、藤原透成さんは支援者を通じ「長い間、探していたんですね。すごく人懐こくていい子でした。家に帰れて良かった」とコメントした。
すべてを見てきたはずのイシマツは何もしゃべらない。その身に何が起きたのか、他の猫たちはどうなったのかは現段階では分からない。
ただ、探していた猫が、本来いるはずのない場所で突然、見つかった。このことは、猫に代わって何かを雄弁に物語っているのではないか。
訴訟の行方を注目したい。
【山田一晶】
猫がいると通報した藤原さん(提供)
堀岡さんが引き渡す前に撮影したイシマツ(同)