新しい飼い主に引き取られたはずの9匹の猫が行方不明になり、元の飼い主が猫の返還と損害賠償を求めている「里親詐欺訴訟」で、1匹の猫が昨年12月、蒲郡市内で発見されたことが関係者への取材で判明した。行方不明になって1年2カ月。男性は猫が無事に戻ったことを喜びつつも「他の8匹も必ず探し出す」と話している。
男性は豊橋市前田南のレストラン経営堀岡宏充さん(60)。昨年4月、猫を引き取ったり仲介したりした女性4人を相手取り、名古屋地裁豊橋支部に提訴し、現在係争中だ。
見つかった猫の名前はイシマツ(雄)。昨年12月7日、一緒に猫探しを続けていた地域猫活動団体「命にやさしいまちづくり ハーツ」の古橋幸子代表に電話が入った。相手は蒲郡市の中学3年生、藤原透成さん。「コンビニに張ってあったチラシとよく似た猫が公園にいる」。チラシは、9匹の猫を見つけるため堀岡さんと、ハーツが東三河各地で配ったものだ。蒲郡市では200枚のチラシを作り、11月からは関連先と思われる現場周辺の各戸にポスティングをしたほか、店などに張ってもらった。
連絡を受けた堀岡さんが翌8日午後、形原町の双太山公園に確認に行った。藪の中も探したが見つからない。諦めかけたが、藤原さんに電話した。すると「今、その公園で子どもたちが猫と遊んでいる。SNSで流れている」と教えてくれた。気づかなかったが、すぐ隣りにいた子どもたちの輪の中に猫がいた。
不思議なことに、藤原さんがそれだと伝えてきた猫は、柄のよく似た別の行方不明の猫「パン」(雌)で、実際にいたのはイシマツだった。パンら5匹の猫は蒲郡市の女性被告が引き取ったはずだが、すべて逃げてしまったと主張している。
癖やしぐさから、すぐにイシマツと分かったという堀岡さん。写真はたくさん残っており、白と茶の色柄は完全に一致した。腹の毛が無いという特徴も決め手となった。堀岡さんの父もひと目見るなり「今までどこに行っていた」と声を掛けたという。
抱き上げて豊橋の自宅に連れて帰った。途中、獣医に診察してもらうと「ノミもいない。けがもしていない。毛並みがきれい。最近、捨てられたのではないか」と話したという。1年以上、どこかで飼われていたらしいのだ。
堀岡さんらの聞き込みで、イシマツは12月1日頃突然、公園に現れたとの証言が集まった。散歩などで通りかかった人は、人懐こい様子から「捨てられた飼い猫だ」と思っていたという。
イシマツを引き取った豊川市に住むとされる女性は住所が特定できなかったため、訴訟の対象外になっている。猫はなぜ、そこにいたのか。謎は深まる。
堀岡さんは長年、衰弱している野良猫を保護し、病院で治療と不妊・去勢手術を受けさせ、大切に育ててきた。訴状によると「室内飼いし、猫の様子を知らせること」などを条件に、猫がより幸せに暮らせることを願って被告らに譲り渡したとしている。
「見つけた日は、信じられなかった。その後、数日間も目を覚ますと本当にいるのかと、何度も確認した」と話し、涙ぐんだ。今、イシマツは自宅でくつろいでいるという。
堀岡さんは引き続き、猫を探し続ける。
【山田一晶】