約30年前、いくつもの旅館が大繁盛していた豊橋市の石巻山。かつてのにぎわいを取り戻そうと、地域の特産品などを販売する催しがこのほど、石巻山の中腹であった。
石巻町の会社経営、河辺義明さん(37)が主催した。東三河地方のイチゴや次郎柿などの生産者、ハンバーグやカレーライスなど地元の飲食店が出店したほか、オーダースーツやシャツや帽子などの衣料品、昆虫標本や骨とう品なども取り扱った。
会場は旅館「ナツメ別館」。出入り口でのアルコール消毒やマスクの着用、建物内の窓を開放するなどして感染症対策が施されていた。イチゴや出来立てのハンバーグに舌鼓を打つ人や、カレーライスの順番を待つ行列ができるなどにぎわった。主催者によると約500人が訪れたという。
河辺さんは「創建が紀元前という説もある石巻神社をはじめ、魅力あふれる文化や自然がある石巻山だが、あまりにも県内の人に知られていない。若い人たちに知ってもらえるよう、きっかけづくりをこれからも続けてたい」と話す。
また、石巻町神郷区の杉浦巧倫自治会長は「30~35年前は、五つの旅館がひしめきあい、大勢の観光客が県内外から訪れていた。あの頃と同じくらいとは言わないが、にぎわいを取り戻せるよう、若い皆さまの取り組みを自治会として支援し、協力できるところはしていきたい」と話した。
取材後記
河辺さんによると、石巻山に関わりの深い高齢者と話をすると、五つの宿、県内外からの大勢の観光客がきたことが必ず話題になるという。
一方で、今は経営している宿は一つになり、店を閉じた空き家の旅館が放置されているため、山の魅力は半減し、訪れる人は劇的に減少した。このことに河辺さんは強い問題意識を感じ、継続的に人の流れを作れるよう、継続的にマルシェを開いている。
見逃せないのが、地元の旅館や自治体との緊密な連携だ。「ナツメ別館」を舞台とするマルシェは今回、寒い時期ということもあって、旅館の敷地の中で行われた。旅館の中の風呂に入れるし、宿泊も可能。主催者と旅館が連携をしていなければできない細やかな配慮だ。
大規模な石巻山のイベントとなると何百台の車が押し寄せることになる。地元の自治会と連携して近隣住民へのイベントの周知を進めたほか、周辺への交通渋滞対策や安全な参加者の移動のための駐車場の分散しての設置などがあった。
地方創生の最大のポイントは「継続性」これに尽きる。不可欠なのは、利害が関係する当事者の理解、自治体など協力的な環境を作るための周辺住民の理解、そして主催者の地方創生に向けた熱量だ。全国的にみても単発的なイベントが多く、地方の活性化に役立っていない最大の理由はここにある。
(客員編集委員・関健一郎)