【連載】三河市民オペラの冒険〈10〉全国へ広がる「情熱の海」(指揮者・園田隆一郎)

2025/04/04 00:00(公開)
園田氏

 三河市民オペラとの出会いは自分の指揮者人生において大きな転機でした。三河市民オペラが私の胸の中にあるオペラの炎をより大きいものにしてくれましたし、オペラを愛する気持ちを共有できる大切な人たちとの出会いでした。

 日本の音楽大学を卒業後15年間ローマに住んで、イタリア人マエストロのアシスタントとして歌劇場での仕事をスタートし、その後は自分自身が指揮者としてイタリアやヨーロッパの歌劇場で演奏活動をしてきました。

 ヨーロッパの歌劇場の年間プログラムというのは好きな物をただ並べれば良いわけではなく、バロックオペラや古典派から現代オペラまで、またイタリアやドイツオペラだけではなくロシア語やチェコ語の作品など、バランス良く偏りのない演目を並べる事が要求されます。

 日本ではオペラの作り方が少し異なりますが、全国各地にたくさんのオペラ団体があります。その規模や演目の数はさまざまですが、ある一定の周期でバランス良く演目を選んで舞台を作らなければいけない、という意味ではヨーロッパと同じだと思います。

 ところが、三河市民オペラにはそれがない。全くない。上演する演目も誰にも縛られずに自由ですし、一年に一度必ず公演をやるみたいな決まり事も全くありません。制作委員会の皆さんの心を熱くする演目が見つかればやる。皆さんの「オペラを作りたい!」という気持ちがメラメラと高まってきたら、その時から3年後4年後を目指して作り始める。

 三河市民オペラ制作委員会の皆さんはオペラ制作が本業ではありません。会社を経営する方、弁護士として活躍する方、教師をしている方などなど、皆さん一人ひとりが違う分野で働いている、とても個性的で魅力的な方々です。移動中やリハーサルの休憩中に制作委員会の皆さんとお話するのが大好きで、非常に未熟で常識のない社会人である私は皆さんから学ぶことだらけです。

 既存の歌劇場やオペラ団体のようなルーティンではないからこそ生まれる全員の「情熱の渦」のようなもの、これが三河市民オペラです。その情熱は、市民の皆さんによって組織された合唱団も共有していて、それが出演するキャストやスタッフにもリハーサル期間中にどんどん伝染していきます。こうして公演当日には舞台の上も舞台の裏も、そして客席の隅から隅までオペラへの情熱が渦巻いていて、その大きな渦に自分も皆と一緒に「エイッ」と飛び込んで指揮をする、というのは他では味わったことのない感覚でした。

 しかもその「情熱の渦」はホールを飛び出して、日本全国へと広がっています。

 もう一度あの感覚、あの感動を味わいたいな、とちょうど思っているところに今回の東愛知新聞のお話をいただきました。

 三河市民オペラ制作委員会の皆さん、そろそろ「オペラを作りたい」気持ちがメラメラと高まってきているのではないですか? 次はどんな演目に出会わせてくれるのか、どんな舞台を作っていくことになるのか、新たな冒険を今から楽しみにしています。

    ◇

 2006年、シエナのキジアーナ夏季音楽週間「トスカ」を指揮してデビュー。翌年、藤原歌劇団「ラ・ボエーム」で日本デビューを果たす。その後ペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルで「ランスへの旅」を指揮したのをきっかけにボローニャ歌劇場、カターニアのベッリーニ大劇場、ジェノヴァのカルロ・フェリーチェ歌劇場、トリエステ歌劇場、フランダース・オペラなどに出演。国内では日生劇場、びわ湖ホール、NHK交響楽団、読売日本交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、京都市交響楽団など、オペラと交響曲の両分野で活躍している。

 2025年は藤原歌劇団「ロメオとジュリエット」、新国立劇場「オルフェオとエウリディーチェ」などが予定されている。

 東京藝術大学指揮科、同大学大学院を修了。2005年第16回五島記念文化賞オペラ新人賞。2017年第16回齋藤秀雄メモリアル基金賞。令和4年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。

 

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