中華丼や串揚げの具などに欠かせないウズラの卵だが、物価高や昨年起きた福岡県の小学校での死亡事故などの影響で危機にひんしている。豊橋市内の農家は1980年代に60戸以上あったが、現在は5戸にまで激減。一方で、着実に販路を拡大している農家もある。豊川市と豊橋市でふ化、産卵、生食用パック卵製造、加工、うずらの肉などを手掛ける「アギーズ」だ。数々の苦境を乗り越えてきた理由を聞いた。
ウズラ農家は、2020年代に入って二つの危機に見舞われた。一つは新型コロナウイルス。もう一つは、福岡県の小学生がウズラの水煮をのどに詰まらせて死亡した事故によるイメージ悪化だ。物価高や鶏インフルエンザで苦しんでいた生産農家を痛めつけた。だがアギーズは生産数こそ微減したものの、スーパーや飲食店などさまざまな販路があったこと、加工品の企画販売で独自性を発揮して乗り切った。
会社の源流は、塩野谷和昭社長(51)の父が始めた養豚業。23歳で妻里美さん(49)とともに知人の勧めでウズラ農家に転身した。数年は生産者として組合に卸していたが「自分たちのロゴの入った卵がスーパーに並ぶのが憧れだった」と塩野谷社長。20代後半で独立を決意した。
最初の数年は販路の確保に苦労した。何百年の歴史がある業界で、アギーズは新参者。作業の合間に塩野谷社長がスーパーや卸問屋、飲食店に扱ってもらえるよう営業したが、門前払いをされることが多かった。それでも卵は次々に生まれる。二人は「目の前のやるべきことをやるしかない。断られても必要な時に、いつか声が掛かる」と前を向いた。
大切にしたのが一人ひとりの客に向き合うことだった。「アギーズに巡り合ってくれたので、小ロットの注文や休日の急な対応、ウズラの悩み相談など、お客さんの要望に応え続けた」と話す。農家が少なくなるなか「ウズラだったらアギースに」と徐々に注文が入るようになった。
販路拡大のために加工水煮やおつまみなど、加工品の開発に取り組んだ。一番人気が5年前に発売したしょうゆ味の薫製。昨年12月、生産農家を応援する豊橋市の「うずらLOVE運動」のサイトに掲載すると、問い合わせの電話が鳴りやまなかった。「一昨年1年分の売り上げを1カ月で売った」とうれしい悲鳴を上げた。
こだわりは手作り。一般的には水煮玉子を薫製味のエキスに付けることが多いが、この商品は生みたての卵を自社でボイルし、しょうゆに付け、桜チップで薫蒸した。パッケージも人気の秘密だ。「今までの幼いイメージを覆したかった」と大人のおつまみの雰囲気を伝えるため、行書のロゴを採用した。「卵の柔らかさと風味がビールに合うし、外で手軽に食べられてお勧め」と語る。
今後の目標は子どもたちにウズラのことを伝えること。最近は「小中学生の自由研究や食育の題材に」と有精卵の販売や豊橋市内の小学校への出前授業、豊橋商業高校との商品開発など、活動は多方面にわたる。塩野谷社長は「文化を継承して残り続けたい」と話す。里美さんは「ウズラを手に取ったことのない人に届けるため、スイーツなどの開発を進めていきたい」と意気込む。
関連商品は豊橋、豊川の両市のスーパーや豊橋市日色野町の「GPセンター」で購入できる。問い合わせはアギーズ(0533・73・2540)へ。
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1998年浜松市生まれ。昔からの夢だった新聞記者の夢を叶えるために、2023年に入社した。同年からスポーツと警察を担当。最近は高校野球で泥だらけの球児を追いかけている。雨森たきびさん(作家)や佐野妙さん(漫画家)らを取り上げた「東三河のサブカルチャー」の連載を企画した。読者の皆さんがあっと驚くような記事を書けるように日々奮闘している。趣味はプロ野球観戦で大の中日ファン。
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