米の生産現場や売り場で異変が続いている。象徴的な事象が米価の動きだ。国も政府備蓄米の放出をはじめ、統計調査の手法の見直しなどさまざまな手だてを打ち出す。豊橋市と、湖西市など静岡県西部の米の生産や販売の現場を追った。
がらんとした空間に、パレットが積み上がっていた。豊橋市の米卸「東三河食糧」の本社倉庫で6月上旬に目にした光景だ。「例年であれば(米袋が)もっとある」と語る渡辺智行代表取締役はこう続けた。「上がり続けた米価の水準は本当に異常だ」
新米が出回っても価格が落ち着かず例年に比べて高値の水準が続いた。玄米で取引先に販売する同社は、複数の仕入れルートを活用して注文に応じて出荷する。だが、今年は倉庫が物語るように販売進捗が早い。5年前にさかのぼると、新型コロナウイルス禍で消費が低迷し流通在庫が増加。このため飼料用米や加工用米への作付け転換による生産が進む動きがある一方で、記録的な猛暑など異常気象で米の生育や品質に響いた。消費の現場では昨夏に出た「南海トラフ地震臨時情報」などを受けて買い急ぐ流れがあるなど「複数の要因が絡んでいる」(渡辺代表取締役)との見方がある。
政府備蓄米の販売を巡っては、取引先の有志から「需要をとりまとめて調達できないかとの相談の声が上がっていた」という。5月下旬の農相交代により予定されていた入札が中止、随意契約による放出に切り替わり卸を通さずに直接小売店に販売する仕組みになった。精米機を持たない小売店は卸に精米を依頼する流れになる一方で、政府備蓄米を求める小規模を含めた小売店全てに行きわたっていない実態もあるとみる。渡辺代表取締役は「従来の商流で進めたほうがスムーズではないか」と疑問を呈する。
「取引先と例年していた特売の話はまったくしていない」と語るのは浜松市の米卸の担当者。集荷先から昨秋調達できた米がかなり少ないうえ、仕入れ価格が上昇したため「赤字覚悟で販売する取引先はない」(担当者)。特売の見直しの流れは不足感が出始めた2023年産米からあったという。「手取りが少ないままでは米作りをする人はいなくなる。輸入米に頼る前に国内生産の仕組みづくりが必要」と訴える。
国会では卸の営業利益に言及する発言が飛び出す場面もあった。取引先から問い合わせを受けた大手卸の「木徳神糧」(東京)は11日、声明を出した。それによると、同社も需給がひっ迫した背景に言及し「複数の要因が重なり安定供給に対する不安が増大した」と指摘。併せて、今年の第1四半期決算で営業利益が増えた理由を説明し「長年にわたる米余りの環境下で、薄利多売という米穀卸売事業の構造的な低収益体質において供給不足という市況の急変が勃発した結果の反動であり限定的な事象と認識している」などとつづった。
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