機密情報を「謀略」から守るためには・・・蒲郡出身の大橋武夫氏の著作、復刊で再び脚光

2026/03/09 00:00(公開)
大橋氏(遺族提供)
大橋氏(遺族提供)

 経済安全保障に関する新法「重要経済安保情報保護・活用法」が昨年5月に施行され、機密保持資格を国が公認する「セキュリティ・クリアランス」制度が本格始動した。こうした中、60年以上前に「日本人は国際謀略に弱すぎる」と警鐘を鳴らし、その作法を説いた一冊の著作が、外交官や経営者の間で再び注目を集めている。元軍人、大橋武夫氏の著書(1964年)に、元外務省主任分析官の佐藤優氏による解説を加え、一昨年に復刊された「復刻新装版 謀略」(時事通信社)である。

 

 大橋氏は蒲郡市の出身だ。27年に陸軍士官学校を卒業し、戦中は第53軍参謀などを歴任した。戦後は倒産寸前の工場を再建し、軍の知恵を経営に生かす「兵法経営」を提唱した。

 

 佐藤氏が大橋氏の書籍と出合ったのは、外務省時代の98年。当時の小渕恵三首相の命で対ロシア調査チームを立ち上げた際で、混迷を極める外交の最前線で「実務を深く理解し、自分の頭で考えている内容のレベルが他とは違った」と振り返る。

 

 大橋氏の先見性を示す有名な逸話がある。防衛省の「戦史叢書」によれば、米軍は45年11月に九州南部へ侵攻し、翌46年3月に関東方面へ上陸して東京を包囲する「コロネット作戦」を計画していた。当時の大本営は「米軍は九十九里浜に上陸する」と確信し、陣地構築を急がせていたが、当時東部軍参謀だった大橋氏は異を唱えた。米軍の物量作戦を支える重戦車や重砲の重量を考慮すれば、船を停泊させられない九十九里浜ではなく、相模湾から来ると主張し続け、独断に近い形で重砲を小田原から鎌倉の海岸線へと配備した。戦後に明らかになった米軍の計画は大橋氏の見立て通り相模湾上陸を含んでおり、その洞察力の高さが証明された。

 

 書籍は全7章で構成される。第1章では日露戦争時の明石元二郎大佐による後方かく乱を分析。第2章、第3章では、第一次世界大戦前後の欧州列強による緻密な情報戦の実態を描く。第4章ではソ連内部の権力闘争と偽情報の流布を扱い、第5章では日本政府中枢に食い込み国策を誘導したゾルゲのスパイ活動を詳述。第6章では、日本の戦国武将が駆使した独自の知略を考察している。最終第7章では、スパイの選定や情報の入手手段など具体的手法を総括した。近代謀略が大衆へ向けられる性質や日本人の脆弱性にも言及し、現代の組織運営や自己防衛に通じる実用的知見をまとめている。

 

 特筆すべきは、大橋氏が謀略の根底に「誠(誠実さ)」を置いている点だ。「人間は脅されても最低限の協力しかしない。相手の信念と利益が合致した時にこそ真の情報が得られる」と説く。真意を隠す「意図の秘匿」や、情報の質にかかわらず感謝を伝える「情報の無評価」など、佐藤氏も外交の最前線で活用した手法が並ぶ。

 

 一方、佐藤氏は新制度に際し「一律の判断をすれば現場の情報収集能力は低下する」と釘を刺す。日米安保は大前提だが、自国の利益で日本を出し抜くこともある同盟国への注意も必要だという。

 

 「われわれは謀略を研究し、撃滅し、身を守らねばならない」。単なる歴史の記録ではなく、国家や組織が生き残るための「作法」を提示する一冊と言えるだろう。3080円(税込)。購入は近くの書店で。

 

著者の佐藤氏 (撮影:榊智朗)
著者の佐藤氏 (撮影:榊智朗)
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北川壱暉

 1998年浜松市生まれ。昔からの夢だった新聞記者の夢を叶えるために、2023年に入社した。同年からスポーツと警察を担当。最近は高校野球で泥だらけの球児を追いかけている。雨森たきびさん(作家)や佐野妙さん(漫画家)らを取り上げた「東三河のサブカルチャー」の連載を企画した。読者の皆さんがあっと驚くような記事を書けるように日々奮闘している。趣味はプロ野球観戦で大の中日ファン。

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