伝統の継承忘れずに

2022/07/28 00:00(公開)
手筒花火の放揚=吉田神社で
手筒花火の放揚=吉田神社で
奉納手筒花火の規制、ガラス張りの議論を

 豊橋市関谷町の吉田神社で「豊橋祇園祭」が営まれた。16日には、奉納手筒花火が神前で放揚された。新型コロナウイルス対策に伴う短縮日程だったが、日常が戻りつつある象徴的な出来事として非常に大きな意義があったといえる。
 そして課題も浮き彫りになった。参加する側の「過度な規制」を慎むべきだという意見と消防など規制当局の「これでも精いっぱい妥協している」という認識の衝突だ。結論を先に言うが、どちらが正しいという話ではない。立場が異なることで必然として起こるこの衝突はとても健全で、毎年行われていかなければならない。
 そして今後、手筒花火を放揚する側、規制する側双方が意見を擦り合わせるガラス張りの議論の場が必要ではないか。手筒花火をやってほしいと言う市民、危険なのでやめるべきだという市民、双方が納得できる妥協点を見出し、400年続く伝統を次の世代へ伝えるためには、前例がなくても、より現実的な、より安全な最善の規制を関係者全員で作り上げる仕組み作りに向けて一歩踏み出すべきといえる。
 手筒花火を揚げるなど花火を取り扱う際には、安全を確保するための「保安距離」を取らなければならないと条例で定められている。たとえば手筒花火で言えば噴き出し方向の前後は17㍍、筒の横側は13㍍と決められている。吉田神社では保安距離を上回る25㍍を確保していた。その上で180㌢の透明の合板パネルを設置し、来場者が見えるようにしたが「安全が確保できない」ということで今年から参道のパネル越しの見物ができなくなった。
 消防は「手筒の吹き出し口が上に上がれば参道から見てもよい」とするが、1分程度の間に100人近い来場者が筒が上がったら参道へ、筒が下がっているうちは参道から移動、などと某大学の集団歩行のように移動を規則正しく繰り返しできるはずもなく、参道から見物することはできなかった。事実上の禁止だ。
 その一方で、消防側の規制の理屈もある。過去の事故を検証すると17㍍を超える30㍍以上離れた場所にいた見物客が負傷した例もあり、条例で17㍍とされていても、さらに安全の確保に向けて距離をとって万が一の事態が起きないよう指導をしたという認識だ。誰も怪我をさせたくない。万が一の事態においても1人の死傷者も出したくない。極めて規制当局としての真っ当な思考回路といえる。
 さらに、都道府県の相対的な規制の比較で言うと、愛知県の規制は低い。東京の靖国神社では40㍍、横浜市の赤レンガも約40㍍の保安距離が設定された。これが全国の煙火の規制の標準だ。愛知の基準は、県の当局と煙火会社が手筒花火の実態に沿った規制を組み立てたという。
 手筒花火を放揚する側にしてみれば「過度な規制」と感じても規制当局にしてみれば「かなり自由度がある」という認識。これは立場が違うのでやむを得ない。しかし、400年以上続く、日本の手筒花火発祥の地に残る豊橋祇園祭を次世代に継承するためには、時代の変化に順応するため、手筒花火を揚げる側と規制する側が双方の主張を伝えあい、現実に合った規制を作り上げていく協議会の場などを設置し、そこで作り上げていくべきではないか。
 双方の想いに板挟みになりながら豊橋祇園祭を成功に導いた全ての関係者に敬意を表す。
(本紙客員編集委員・関健一郎)
約400年の歴史を持つ笹踊り
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