豊橋市東部の借家の屋内で今月、男性(56)が衰弱した状態で発見され、市職員が搬送する事案があった。「1週間食べていない」と話したという。異変に気づいたのは、地域猫活動に取り組む2人の女性だった。
Aさんは午前4時から1時間、犬の散歩を日課としている。今年になって80代とみられる男性が歩行器にすがって未明の道路にいるところを何回か見た。「大丈夫ですか」と声を掛けると「大丈夫」と返事をした。気になって見ていると小さな借家に入っていった。
その後、今度はその家の近くで足を引きずるようにして歩いている男性を見かけた。つなぎの作業服のようなものを着ていた。男性はこの家に住んでおり、前の高齢男性の息子だということが分かった。近所の人は、親子が別々に近所のコンビニに行く姿を何度か目撃したと証言した。
この家には猫が出入りしていた。Aさんは、以前から地域猫活動の協力を得ていた動物福祉団体「ハーツ」メンバーのBさんに連絡。2人で高齢男性を説得し、2匹の猫を預かる準備をしていた。
事態が動いたのは先月末。Aさんが家の前を通ると、高齢男性が庭で排せつしていた。聞くとトイレが使えないのだという。心配して市議に民生委員への連絡を求めたり、市役所に通報したりした。高齢男性は施設に収容されたらしい。
一方の息子はすでに栄養失調だったようだ。間もなく救急車で病院に運ばれ、点滴されて帰ってきた。今月上旬、Aさんが家を訪ねたが呼んでも返事がない。しばらく呼び掛けていると、台所の奥の方から這うように出てきた。「着るものがない」と上半身裸の紙おむつ姿だった。もともと障害があるという。
「気分が悪い」「腹が痛い」「電気も水道も止められた」「お金がなくて1週間、何も食べていない。猫の餌もない」などと訴えたため、Aさんは夫の服を貸してやり、布団を運び込んだ。コンビニのおにぎりやゆで卵を与えた。少し元気になったようだった。Bさんが2日かけて猫を保護しAさんの家に預けた。息子は「以前は生活保護があったが今は受けていない」などと話した。
家の中は足の踏み場もないぐらい雑然と物が置かれ、猫のトイレは汚れたまま。異臭が漂っていた。「民生委員は来た?」と尋ねても「誰も来ない」との返事だった。
4日、記者が市に問い合わせをしたが「答えられない」との回答だった。その後、息子は市職員によって搬送された。医療機関に入っているとみられる。Aさんは、家に来た5人の職員に経過を教えるよう求めたが「個人情報なので」と断られたという。
5日午前、AさんBさんとともに現場へ行った。玄関先には衣類や本が積まれており、猫の排せつ物の悪臭がしていた。また掃き出し窓は開かれたままになっていた。さらに庭先に、一部白骨化した猫の死骸があった。Bさんが市に電話し、現場の状況を説明した。相手の職員は「関係部局に情報を提供する」と答えたという。窓は、ほかにも猫が閉じ込められている可能性を考え、ハーツの別のメンバーが少し開けるよう、家の管理会社に頼んだそうだ。
Aさんは「パトカーが来たこともあるらしい。各機関の連携が悪すぎるのではないか。弱い立場の人が救われないのはおかしい」と残念がる。
Bさんは小さな命を守る活動を続ける立場から「飼い主に何かあった場合、猫は餓死するか、殺処分されるか、保護されるかは運次第で、一番の被害者となる。行政がペットを保護する仕組みをつくってもらいたい」と話した。
Aさんは、東愛知新聞社にコメントを寄せた。
私の救いは、この親子が大変な環境にいながら、明るく優しい光を放って生きていたことだ。だからこそ、声を掛けられた。貧しさは自分の責任だ、と思われるかもしれない。しかしこの「息子」は就労継続支援B型の事業所に通う障害者だ。どのような障害があるかは分からないが、社会の助けが必要な立場だ。私たちはもっと隣人に優しく接していいのではないか。さまざまな事件があるから他者との関わりにも慎重になる時代。しかし心を開いて見渡せば、社会の片隅には日々をつらい環境でも前向きに生きてる人がいる。私たちはみな変わらない存在なのだ。
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1967年三重県生まれ。名古屋大学卒業後、毎日新聞社入社。編集デスク、学生新聞編集長を経て2020年退社。同年東愛知新聞入社、こよなく猫を愛し、地域猫活動の普及のための記事を数多く手掛ける。他に先の大戦に詳しい。遠距離通勤中。
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