飼い主のいない猫(野良猫)を減らすため、猫を捕まえて不妊・去勢手術をして元の場所に戻し、餌やトイレを管理するのが「地域猫活動」。豊川市三上町の「ヤマヒロ動物病院」は年1500件の手術を続けている。東三河の地域猫活動団体の信頼が厚い。
山本秀光院長(50)は「本当にすごいのは、雨の日も酷暑の日も外で野良猫を捕まえてくるボランティア。私はできることをしているにすぎない」と謙遜する。
父が大の動物好き。5匹の犬と育った。この影響もあり、北里大学獣医学部へ進んだ。学生生活中に猫を飼い始めた。長期休みで実家に連れて行ったが戻る時に父は「置いていけ」と言ったという。
獣医師となり、勤務医をしていた2004年12月、スマトラ島沖地震が起きた。神奈川県大和市の開業医、山口武雄さんによる被災地の犬猫救援の呼び掛けに応じ、計3人でタイのプーケット島に入った。
世界各国から獣医師が来ていたが、話し合いの結果、まん延していた狂犬病を島から撲滅することになった。山本院長ら3人は、狂犬病ウイルスを運ぶ猫の不妊・去勢手術を始めた。
タイの野良猫は人を恐れない。誰もいじめないからだ。そして子猫が生まれると、寺院に運ばれる。山本院長らは寺で猫を捕まえ、片端から手術していった。
午前8時に手術室へ行って水道の蛇口を開ける。遅くなると他所が水を使い出すので水が出なくなるらしい。濁り水だったが消毒液を入れ、手術で使う。術技は山口さんに教わった。一日10匹の手術を繰り返した。「こんな環境でも、手術した猫が病気にもならないと気付いた」という。20日間の滞在を終えて帰国した。
05年に愛・地球博(愛知万博)が開かれた。世界各国に関心が高まっている今がチャンスだと「犬猫にも関心を持って」という手紙を書いて、豊橋市や豊川市の市長に送ったが、返事はなかった。ならば自分でやろうと09年、現在地に動物病院を開業した。
野良猫の手術料は雄雌とも6600円(ペットは別)。他の病院は切開と縫合がある雌の手術代を高く設定している場合がほとんどだ。山本院長は他の獣医の半分以下の時間で手術を終える。プーケット島での体験が生きている。一般の診療時間の隙間にさっと手術を済ませる。料金は「自分たちに損害が出ない程度」の設定。手術を続ける理由を「自分のわずかな時間を使ってできる社会貢献」と語る。
ここ数年で豊川市、蒲郡市、田原市と相次いで猫の手術に補助金が出るようになった。豊川市だけでなく蒲郡市や田原市から来た野良猫にも手術をしている。地域猫活動ボランティアたちがよく来院する。
開業前、動物福祉団体「命にやさしいまちづくりハーツ」代表の古橋幸子さんに相談に行ったという。豊川駅周辺の猫の手術をした際は、ケージに入れた十数匹の猫をトラックに積んで、自らリターンする場所まで運んだ。「まさか自分で来るとは思わなかった」と古橋さん。
年に1500匹を手術しても、野良猫は減らない。それでも、と山本院長は言う。「不幸な猫を減らすには『蛇口を閉める』しかない。それが手術です」と話した。
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1967年三重県生まれ。名古屋大学卒業後、毎日新聞社入社。編集デスク、学生新聞編集長を経て2020年退社。同年東愛知新聞入社、こよなく猫を愛し、地域猫活動の普及のための記事を数多く手掛ける。他に先の大戦に詳しい。遠距離通勤中。
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