【連載】宮本先生のゼロからわかる金融教室(6) 金融詐欺 正しく恐れる

2025/09/04 21:00(公開)

 旅先で盗難や詐欺に遭うのは悲しいですね。財布やパスポートを盗まれたり、タクシーで高額な料金を請求されたり、偽造品を買わされたり、助けを求められてお金を請求されたり…。日本人の海外旅行者を狙う窃盗や詐欺は後を絶ちません。その手口は年々進化しています。

 

 金融詐欺も同じです。高齢者を狙ったオレオレ詐欺は、架空請求詐欺、還付金詐欺など、その内容も手法もどんどん進化し、対策しても、いたちごっこの様相です(総称して特殊詐欺と言います)。ネットバンキングが普及するようになってからは、金融機関を装った偽のメールを送るなどして口座情報を盗み取るフィッシング詐欺や、コンピュータウィルスを使用した不正送金が増えています。近年では、SNSを使った投資勧誘詐欺も盛んです。NISA制度が改正され、これまで証券投資をしていなかった人たち、特に若年層に関心が広がったことが、著名人のフェイク動画を使った投資勧誘詐欺の増加につながっているとみられます。

 

 インターネットやSNSの普及が詐欺のモデルを進化させていることは否定できません。特殊詐欺に関しては、SNSを通じて受け子や出し子を容易に集めることができるようになり、犯罪組織があっという間に作れるようになってしまいました。金融詐欺の主戦場は、インターネットやSNSです。テクノロジーの進歩が人々の生活を豊かにするのは間違いありませんが、特殊詐欺や金融詐欺は、避けることのできない負の側面と言えます。

 

 金融詐欺に遭わないために注意することは、基本的には旅行で盗難や詐欺に遭わないように注意することと同じです。旅行に出かける限り、リスクをゼロにすることはできませんが、危険な場所や時間帯を避け、パスポートや財布など大事なものは肌身離さず、見知らぬ人からの声掛けには十分注意するのが基本です。金融詐欺を避けるためにも、信頼できないサイトにはアクセスせず、IDやパスワードをしっかり管理・更新し、心当たりのないメールやメッセージには反応しないことが基本です。

 

 また、新しい金融詐欺が次から次へと出てくるので、金融詐欺に関するニュースや報道には注意し、どんな手法が使われているかの理解をアップデートしておきましょう。相手の手の内を知っておくということです。

 

 しかしそれでも金融詐欺に引っかかってしまうのはなぜでしょうか? 日頃は十分に注意している人でも、気が緩んだり油断したりしてしまう瞬間は必ずあります。たとえば、仕事に疲れて家に帰ってから、夜中にネットバンキングの操作をしているときにフィッシング詐欺に引っかかってしまうなど。

 

 金融詐欺を避けるために、インターネットを使った金融取引を一切行わないといことは、危険な場所に近づかない考え方に見えますが、それはお勧めできません。これからますます便利になるインターネット金融のメリットを享受できなくなるだけでなく、もしネットで金融取引をせざるを得なくなったときに、使い慣れていないことが金融詐欺に遭う危険性を高めるからです。

 

 金融詐欺を正しく恐れるためには「自分は注意しているから大丈夫だ」と考えるだけでなく、「どんな人にも金融詐欺に引っかかってしまい易いタイミングがある」ということを、まず、認識しておきましょう。夜中や疲れたときにネット取引は行わないとか、日常的なやりとりをしている相手以外からのメッセージには、何時間か間をあけてから対処・返信するといった、ルールを自分で作っておくことも有効でしょう。

 

 それに加えて、被害を最小限に抑えるための工夫もしましょう。旅先で盗難あっても被害を少なくするためには、必要以上の現金を旅行に持っていかないようにしますよね。同じように、ネットバンクの口座に入れる預金を分散したり、送金額の上限を設定したりしておけば、万が一、金融詐欺に遭ったとしても被害を小さくすることができるでしょう。

 

 金融詐欺はテクノロジーの進化の副産物です。正しく恐れて、テクノロジーの進化の恩恵を享受しましょう。

 

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宮本弘之(みやもと・ひろゆき)

野村総合研究所で32年間、経営コンサルティング業務に従事。主に金融機関の経営コンサルティングを担当、日本人の金融行動や富裕層の研究を立ち上げる。2022年4月から豊橋技術科学大学で経済学及び金融の教育・研究に取り組む。その傍ら、豊橋市内でのアントレプレナーの育成、リスキリング、金融経済教育の各分野の活動にも携わっている。東京工業大学修士(経営工学)、埼玉大学博士(経済学)。豊橋技術科学大学総合教育院教授(22年4月~)、同建築・都市システム学教授兼務(24年4月~)。

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